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旧優生保護法に関する最高裁大法廷判決を受けて同法に基づく被害の全面的な回復を求める会長声明

2024.07.10

 本年7月3日、最高裁判所大法廷(戸倉三郎裁判長)は、旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関する国家賠償請求訴訟の5件の上告審において、国による除斥期間の主張が信義則に反し、権利濫用として許されないとの統一的判断を示した(以下「本判決」という。)。
 本判決は、旧優生保護法が憲法第13条及び第14条第1項に反する違憲の法律であったことを認めた上で、立法という国権行為、それも国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白であるものによって国民が重大な被害を受けた本件においては、法律関係を安定させることによって関係者の利益を保護すべき要請は大きく後退せざるを得ないことを指摘し、国による除斥期間の主張は、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認できないものであるとして、国の主張を認めなかった。
 また、専ら優生上の見地から特定の個人に重大な犠牲を払わせようとする旧優生保護法の規定について、そのような規定により行われる不妊手術について本人に同意を求めること自体が、個人の尊厳と人格の尊重の精神に反し許されないのであって、これに応じてされた同意があることをもって当該不妊手術が強制にわたらないということはできないことも指摘された。

 旧優生保護法をめぐる訴訟に関しては、各地の裁判所において除斥期間の適用の有無や本人同意の性質等について判断が分かれていたところ、本判決が統一的判断を示したことにより、国が被害者に対して損害賠償の責任を負うことが明確になった。
 熊本県内においては、優生手術を受けたとする2名が国家賠償請求訴訟を提起しており、熊本地方裁判所は2023年1月23日に国に賠償を命じたが、この訴訟は、現在控訴審である福岡高等裁判所に係属中である。これら係争中の案件においても、国が、本判決を踏まえ、賠償責任を認めて誠実に対応することを求める。

 旧優生保護法による被害者は、統計で判明しているだけでも25,000人という多数にのぼっている。一方で、旧優生保護法による被害に関して国家賠償請求訴訟を提起した当事者は39名に過ぎず、また、同法による被害について一時金を支給する「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」に基づく請求件数は202455日現在1,326件、認定件数は同年4月末現在1,102件にとどまっている。このように被害が潜在化していることの大きな理由は、まさに、国による優生政策によって、被害者が声をあげにくい環境がつくられてきたことであるといえる。
 本判決においても、優生手術に関する規定の削除後も、国会が補償の措置をとらなかったことが問題視されている。さらに、三浦守裁判官の補足意見において、できる限り速やかに被害者に対して適切な損害賠償を行うため、国が必要な措置を講じ、全面的な解決が早期に実現することを期待すると明確に述べられているところである。
 そこで、当会は、本判決が除斥期間の解釈について統一的な判断を下したことを踏まえ、改めて、国に対し、全国各地で争われている同種訴訟における被害者はもとより、様々な事情によって提訴に至っていない多くの被害者、そしてその配偶者を含むすべての被害者のために全面的な被害回復に向けた立法措置を行うことを求める。

 なお、当該大法廷での審理及び判決にあたっては、裁判所は、弁護団等との協議に基づき、傍聴者向けの手話通訳を公費で負担するなど障害のある当事者及び傍聴人に向けた様々な配慮を提供し、すべての人に開かれた裁判に向け、歴史的な一歩が踏み出された。一方で、当事者向けの手話通訳の手配が公費で行われないことなどの課題もあり、引き続き、裁判所において、障害者の権利に関する条約に基づく手続上の配慮及び合理的配慮の提供が求められるところである。

 旧優生保護法は、優生思想に基づく差別・偏見を社会に深く根付かせた。2022311日東京高裁判決では、平田豊裁判長が所感において「差別のない社会をつくっていくのは、社会全体の責任である。」と述べた。旧優生保護法の問題に光があてられるまでになぜこれだけの長い時間を要したのか、その間に弁護士会として、より積極的に取り組むべきことがあったのではないかという点について、当会としても真摯に向き合った上で、旧優生保護法による被害の全面的な回復に向けて、具体的な取組みを続けていく決意である。その一つとして、2024716日、日本弁護士連合会とともに「全国一斉旧優生保護法相談会」(統一ダイヤル0570-07-0016)を実施することにしている。
 人権侵害が放置され、その被害回復が遅れることがないよう、当会は引き続き全力で取り組む所存である。

2024年(令和6年)7月10日
熊本県弁護士会
会長 河津 典和