能登半島地震に関し法テラス支援特例法の制定等による法的支援の継続を求める会長声明
第1 声明の趣旨
1 国は、令和6年能登半島地震(以下「能登半島地震」という。)について、東日本大震災における対応と同様、被災地に住所、居所、営業所又は事務所(以下「住所等」という。)を有していた者であれば資力を問わず日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)における法律相談援助、代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどについても代理援助・書類作成援助の対象とすること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されること、などを含む法テラスの業務に関する特例法を制定すべきである。
2 仮に現時点で上記1のような特例法の制定が困難であるとしても、国は、現在1年以内とされている総合法律支援法第30条第1項第4号における政令による指定期間を柔軟に延長することが可能な法改正をし、令和7年1月1日以降も法テラスにおける能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能とすべきである。
第2 声明の理由
1 能登半島地震の発災から約11ヶ月が経過した。内閣府の非常災害対策本部の発表によれば、令和6年10月29日時点での被害状況は、死者・行方不明者が415名(うち災害関連死が185名)、負傷者が1341名、半壊以上の住家被害が3万0317件となっており、平成23年に発生した東日本大震災以降最大の被害が発生している。また、10月29日時点において、石川県内では、依然として172名の被災者が避難所での避難生活を余儀なくされている状況である。
被災地では、復旧に向けた関係各位の懸命な活動が続いており、徐々に復旧が進みつつあるが、被災地へのアクセスの困難さや自治体、関係事業者のリソース不足もあり、公費解体の遅れ等の問題も生じている。
2 能登半島地震は、令和6年1月11日に、政令により、総合法律支援法第30条第1項第4号に規定する非常災害に指定されており、法テラスにおける「大規模災害の被害者に対する法律相談援助制度」(以下「被災者法律相談援助制度」という。)の適用対象となっている。この制度は、政令で非常災害と指定された災害について、発災後最長で1年間、被災地域に住所等を有する者に対し、資力を問わずに法テラスにおける無料相談を実施する制度であり、過去には、平成28年熊本地震をはじめとして、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨にも適用された。
能登半島地震の被災地では、法テラスの事務所における相談に加えて、事務所へのアクセスが困難な地域には移動相談車両(法テラス号)を派遣するなどの対応がとられており、被災者法律相談援助制度は、能登半島地震の被災者の法律相談ニーズに応えるうえで重要な役割を果たしている。
3 上記のとおり、被災者法律相談援助制度は、発災後最長1年間という期間が定められており、能登半島地震についても、令和6年12月31日までの期間が定められている。
その一方で、上記1でも述べたとおり、発災後約11ヶ月が経過した現時点においても、依然として多くの被災者が避難を余儀なくされており、公費解体も十分には進んでいないなど、生活再建の入り口にすら立っていない被災者も多数存在する。被災者支援制度の基礎となる罹災証明書についても、判定そのものやその基礎となる資料の情報公開等について問題が指摘されており、被災者からの相談も継続すると考えられる。また、被災地では、災害関連死の認定数も増加しており、災害関連死の申請に関する相談や対応も継続する可能性が高い。これらに加えて、各種の支援金の申請、地震に起因する紛争の解決、自然災害債務整理ガイドラインに基づく債務整理を含む債務の処理など、さらに多数の相談ニーズや紛争処理のニーズが生じることが容易に予想される。
実際、東日本大震災や被災者法律相談援助制度が適用された近時の各大規模災害においても、いずれも発災後1年の時点でも法律相談の件数はいずれも高止まりしており、被災者の法律相談の必要性は高い状況であった。これは、平成28年熊本地震における被災者法律相談援助の件数は、終了直前の平成29年3月に1378件と、発災後最高件数を記録した事実からも裏付けられる。被災者の法的ニーズは、発災から1年が経過したからといって、形式的に減少・収束するものでは無い。
それどころか、熊本地震においては、令和6年8月に新たに災害関連死が認定されるなど、発災から8年以上が経った現在においてもなお支援を必要としている被災者が存在する状況にある。
さらに、能登半島においては、令和6年9月20日からの大雨によって、激甚災害(本激)に指定される規模の災害が発生し、能登半島地震の被災者が復興途上で再び被災するという事態も生じている。
特定非常災害に指定される規模の大地震と、激甚災害に指定される規模の大雨との複合災害という、極めて稀かつ酷な事態に直面した被災者に対する法的支援の必要性は、同大雨の前よりも一層高まっている。
このような状況であるにもかかわらず、被災者法律相談援助制度が1年間で終了するとすれば、被災者に対する法的支援としては十分とは言えないものと考えられる。
4 平成23年に発生した東日本大震災の際には、上記の総合法律支援法に基づく非常災害の指定の制度はまだ存在しなかったが、発災から約1年後の平成24年3月23日に、「東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律」が制定され、同年4月1日から施行された。この特例法による制度は、被災地に住所等があった者であれば、資力を問わず法テラスにおける法律相談援助、代理援助等を受けられること、裁判所の手続のほかにADRなどが代理援助・書類作成援助の対象となること、事件の進行中は立替金の返済が猶予されることなどの特色があり、当初は3年間の時限立法であったが、令和3年3月31日まで、2回に渡り、期間が延長された。
能登半島地震については、東日本大震災以降最大規模の被害が生じていることに加え、上記のとおり、災害からの復旧や生活再建が様々な事情から停滞していることからすれば、同地震に関しても同様の特例法を制定し、法テラスによる支援を継続すべきである。
5 また、仮に現時点で上記のような特例法の制定が困難であるとしても、今後も確実に生じる被災地における法律相談ニーズに十分に応えるため、総合法律支援法の改正により、現在1年以内とされている同法第30条第1項第4号における政令による指定期間をより柔軟に延長することを可能とし、令和7年1月1日以降も法テラスにおいて能登半島地震の被災者に対する資力を問わない無料法律相談の実施を可能とすべきである。
この改正は、能登半島地震のみならず、今後発生する可能性がある大規模な自然災害への対応を考えても、必要な法改正であることは明らかである。
熊本県弁護士会
会長 河津典和