憲法記念日にあたっての会長談話
1 日本国憲法は、本年5月3日、1947(昭和22)年の施行から78周年を迎えます。
日本国憲法は、先の大戦における歴史を痛切に反省し、政府によって二度とこのような過ちが繰り返されることのないよう、立憲主義の下で、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という恒久平和主義を基本原理として制定されました。まさに、日本国憲法は、人類が過去の歴史から学び得たことの結晶というべきものです。
そして、世界中を見渡せば国際紛争の絶えない中、我が国が、日本国憲法のもとで、既に78年の長きにわたって平和を享受していることも尊重すべき事実です。
2 しかし、社会保障費が削減される一方、新安保法の制定・安保3文書の閣議決定を経た防衛費等の対国内総生産(GDP)比2%への拡大・統合作戦司令部の発足と敵基地攻撃の兵器保有等、現代の日本は軍拡の流れが進んでいます。緊急事態条項の制定等、過去に濫用された歴史を持つ制度の制定を目指す憲法改正の動きも活発に行われており、戦後、我々が当たり前に享受してきた平和が、今、危険にさらされています。
3 海外に目を向けると、2022(令和4)年2月以降、ロシア連邦がウクライナへの軍事侵攻を開始し、現在も一般市民を含む犠牲者は増え続けています。
さらに、2023(令和5)年10月から、ハマス等パレスチナ武装勢力によるイスラエル攻撃を発端としたイスラエルによるパレスチナへの空爆等が始まりました。パレスチナ地区ガザ保健省が本年3月23日公表したところによれば、2023(令和5)年10月以降、ガザで死亡した住民が5万人を超えたとのことです。
この暗澹たる惨状を目にしたとき、暴力や武力によることの悲惨さを痛感するとともに、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認した日本国憲法前文の理想を想い起こさずにはいられません。
当会は、2022(令和4)年3月10日にロシア連邦のウクライナ侵攻に関する会長談話を、昨年7月10日に、ハマス等パレスチナ武装勢力及びイスラエル双方に対して直ちに停戦を求め、日本政府に対して停戦の実現に向けて働きかけることを求める会長声明を発出しました。
日本国憲法は、武力ではなく対話と協調による外交努力によって平和を維持することを目指しています。今こそ日本国憲法の力を活かすときであり、これらの当会の会長声明、談話でも求めているように、日本政府が国際社会に対して平和の実現を真摯に働きかけることが望まれます。
4 国内に目を転じれば、憲法の三原則のうちの一つ、基本的人権を尊重する取組みや裁判例が出ています。
例えば、同性婚での婚姻を認めない現在の法制度が憲法違反であるとの裁判が各地で起こされていますが、本年3月25日、大阪高等裁判所で、同性婚を認めない規定は個人の尊厳を大きく損ない、不合理な差別だとして「違憲」であるとの判断が出されたことで、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡の5高裁全てで違憲判決が出されました。司法が、多様な性のありかたを前提として、個人を尊重する動きを強く後押しするものといえるでしょう。
人を個人として尊重し、基本的人権を尊重するという憲法の理念を実現するために、今後もさらに憲法を活かしていくことが望まれます。
5 本年は、戦後80年を迎えます。
戦争は、究極の人権侵害であり、環境破壊行為です。世界各地で多発する紛争、地球規模で進行する気候変動、AI等これまでにないレベルで発展する技術、多様化する価値観があり、世界も日本も情勢は目まぐるしく変化しています。その中で、日本が再び戦争という人権侵害・環境破壊行為をすることのないよう、日本国憲法が基本原理とする基本的人権の尊重・国民主権・平和主義を実現するための不断の努力が我々国民に求められています。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義を使命とする法律家団体として、憲法の理念を踏まえ、平和と人権擁護のために全力をあげて活動してまいります。
熊本県弁護士会
会長 本 田 悟 士