最低賃金額の大幅引上げ及び地域間格差の是正並びに中小企業への実効的な支援等を求める会長声明
1 当会は、熊本県内及び全国の最低賃金額の現状等に鑑み、最低賃金額の大幅な引上げと共に、最低賃金額の地域間格差の是正、その影響を受ける中小企業への実効的な支援を求める。
2 最低賃金額の大幅な引上げ
熊本県における地域別最低賃金は、昨年の引き上げにより、時間額952円となった。この金額は、一昨年から54円と過去最大の引き上げ額であるものの、全国加重平均である時間額1055円を大きく下回っており、九州地域では宮崎、沖縄と並んで一番低い水準である。
仮に、この最低賃金額を前提にフルタイム(1日8時間、週40時間、月平均173.8時間)で働いたとしても、月収約16万5457円、年収で約198万5484円にしかならない。未だに、ワーキングプアと呼ばれる給与水準(200万円以下)を超えておらず、単身世帯においてさえ、生活に十分な金額と言うことはできない。まして、世帯を築き、子どもを育てていくには、賃金のみで生活を維持することは困難である。
そもそも、地域別最低賃金を決定する際の重要な考慮要素とされている労働者の生計費が、正社員を含むフルタイムの労働者(一般労働者)の所定内労働時間である152.6時間(毎月勤労統計調査令和6年10月分結果確報)で換算すれば、時給1500円を大きく超える結果となっていることから、最低賃金法1条が定める「労働者の生活の安定」が達成されているとは言い難い状況である。
加えて、ここ数年、食料品や光熱費など生活必需品の価格の上昇が続いており、特に、低所得者が受ける影響は甚大である。
厚生労働省が本年2月5日に発表した「毎月勤労統計調査2024年分結果速報」によると、現金給与総額(事業所規模5人以上)での実質賃金指数は、前年から0.2%減少となり、3年連続での前年比マイナスとなった。物価上昇に労働者の賃金上昇が追い付いていかず、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金の上昇率はほぼゼロ状態が続いている。労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、大企業だけでなく中小・零細企業も含めた全ての労働者の実質賃金の上昇を実現する必要があり、そのためには最低賃金額を大幅に引き上げることが何より重要である。
3 最低賃金額の地域間格差の是正
また、最低賃金額の地域間格差が依然として大きいことも重大な問題である。熊本県における最低賃金額は、全国で最も高い東京都の時給1163円との間で211円、九州内で最も高い福岡県の時給992円との間で40円もの差が有り、依然として都市部との大きな格差が生じ続けている。しかし、最近の調査によれば、労働者の生計費は、都市部と地方の間でほとんど差がないとされている。最低賃金については、あえて地域別に金額を設定する合理性は乏しい。そして、地域の最低賃金の高低と人口の増減には相関関係があるとされており、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因の一つともなっている。早期に全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
4 中小企業への実効的な支援等
これらに合わせて、最低賃金引上げの影響を受ける中小企業には、最低賃金を引上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。
この点、国は「業務改善助成金」制度による支援を実施しているが、中小企業経営者からは、助成対象が生産性向上に資する設備投資等の費用に限定されていることや、助成対象経費支払後に補助金が交付されるなどへの批判が多く寄せられており、中小企業への支援策としてこれだけで十分であるとは言い難い。
例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、人件費及び原材料費等の上昇を取引価格に適正に反映させることを可能にするよう、法規制の充実と監視行政の充実などが効果的と考えられる。
なお、政府においても、2024年11月22日、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を閣議決定し、日本経済・地域経済の成長には、国民一人一人が実際の賃金・所得の増加という形で手取りが増え、豊かさが実感できるような政策を更に前進させなければならないとし、「2020年代に全国平均1500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続する」、「地域別最低賃金の最低額に対する最低額の比率を引き上げるなど、地域間格差の是正を図る」としている。これらの目標達成のためにも、充実した中小企業支援策が強く求められる。
5 まとめ
以上のことから、当会は、中央最低賃金審議会及び熊本地方最低賃金審議会に対し、労働者の健康で文化的な生活水準を保証し、地域間格差解消を図るべく、最低賃金額の大幅な引上げを答申することを求めるとともに、国に対し、実効的かつ十分な中小企業支援策を求めるものである。
熊本県弁護士会
会長 本 田 悟 士