佐賀県警科捜研技術職員によるDNA型鑑定での不正行為及びその公表後の佐賀県警の対応について非難するとともに、純然たる第三者による調査を求める会長声明
本年(2025年)9月8日、佐賀県警察(以下、「佐賀県警」という。)は記者会見において、科学捜査研究所(科捜研)に所属する技術職員が7年余りにわたりDNA型鑑定で実際は行っていない鑑定を行ったように装う等虚偽内容の書類を作成する等の不正行為(以下、「本件不正行為」という。)を繰り返していたことを公表した。佐賀県警によると、本件不正行為は130件確認され、うち16件の鑑定結果は証拠として佐賀地方検察庁に送られていたとのことである。 虚偽証拠の作出、顕出は憲法の保障する適正手続をないがしろにし、刑事訴訟法の目的である事案の真相を明らかにすることを妨げる行為であって、当該証拠の捜査・公判への影響の有無や程度を問わず許容され得ない。特にDNA型鑑定などの科学鑑定は捜査の基礎となる情報であり、その内容や結果が信頼されるのは高度の専門性と中立性に担保されるものであるが、本件不正行為はかかる科学鑑定に対する信頼を根幹から揺るがすものであって、前代未聞かつ極めて重大な不祥事である。
我々弁護士は、科学鑑定に関する証拠について、特別な事案のみにおいて接するものではない。日頃、法廷において弁護活動を担う弁護人は、検察官が証拠請求する科学鑑定に関する証拠に対する証拠意見を述べるにあたって、それが適正な手続により実施されているであろうという、ある種の「信頼」を念頭に置くこともある。しかしながら、本件はこの「信頼」を根底から覆すものであり、原因の究明や再発防止策の構築が徹底してなされなければ、刑事手続全般について深刻な影響が及ぶ。これは、決して佐賀県警のみの問題ではない。
しかしながら、報道によれば、佐賀県警の福田英之本部長(以下、「福田本部長」という。)は、本年(2025年)9月17日開催の佐賀県議会本会議での答弁において、さらなる実態の解明や再発防止に向けた第三者委員会の設置に関し「必要があるとは考えていない」との認識を示し、佐賀県公安委員会の岸川美和子委員長も「第三者委員会の設置について、必要はないと考えている」と答弁したとのことである。さらに、本年(2025年)10月2日には、佐賀県議会において、独立性、透明性、専門性などを備えた第三者による調査を行うことを求めることを含めた決議案を全会一致で可決したが、同日、福田本部長は、改めて「新たな調査機関を設けることは考えていない」と述べたとのことである。
このような佐賀県警の態度は、ことの重大さや自らの置かれた立場を全く理解しないものであり、再発防止など到底期待できるものではない。また、福田本部長が述べるように、第三者性を備えた佐賀県公安委員会による調査をもって十分だということなのであれば、少なくとも、これが第三者による調査として耐えうる内容であったということが佐賀県公安委員会により具体的に明らかにされるべきである。
当会は、当然ながら本件不正行為について強く非難するものであるが、それを超えて、本件が佐賀県警内部において発覚してから公表するまでの経緯が明らかになっているとは言い難いことや、上記のように再発防止に真摯に取り組む姿勢が全く見受けられない佐賀県警の対応について最大限の非難を行うものである。
また、当会は、本件公表後の佐賀県弁護士会による迅速な意見表明や対外的活動について敬意を表し、全面的に支持する。佐賀県弁護士会がこのような活動を積極的に行わなければならないのは、佐賀県警に自浄作用がないことの表れであり、極めて遺憾である。
当会は、本件が決して佐賀県警のみの問題ではなく刑事手続全体を揺るがす重大な問題であることを改めて認識し、捜査機関が作成する証拠の作成過程に信頼を置くことができない状況が継続する場合には適正手続遵守の観点から個別の事件においても然るべき措置を講ずることが必要であると考えていることを表明するとともに、改めて、佐賀県警に対し、原因究明・再発防止に真摯に向き合うことを強く求める。
熊本県弁護士会
会長 本 田 悟 士


