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障がいの有無にかかわらずすべての人を対象とした民事法律扶助制度の実施を求める会長声明

2026.04.20

1 令和8年3月4日、熊本地方裁判所(平井健一郎裁判長)は、当会会員が原告となって日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)を被告として提起した、民事法律扶助による立替金の返還債務の不存在確認を請求した訴訟について、原告勝訴の判決を言い渡した。
  本件は、保佐開始の審判事件として援助が開始されたが、被援助者が後見相当であるとの医師の診断がなされたことから、法テラス熊本地方事務所長(以下、「本件所長」という。)が援助を終結し、受任弁護士が立替金の返還をすべき旨の決定をしたということに対して、受任弁護士(原告)がその返還の義務がないことの確認を求めた事案である。裁判所は、後見相当と判断された者について一律に援助開始決定をしなかったとしても不当な差別に当たるということはできないと判示しつつも、援助を終結する旨の法テラスの決定が、実質的には後見開始を理由として事業者が消費者契約を解除することを禁じた消費者契約法8条の3に違反するものであるとして、無効であると判断した。

2 消費者契約法8条の3は、消費者が成年後見制度を利用したことにより、それまで受けていた便益を受けることができなくなるなどの不利益を防止するための規定であるが、裁判所は、本件所長が、被援助者が医師等の判断により成年後見相当であると判明した際に、一律に「援助を継続することが著しく困難であるとき」(法テラス業務方法書56条1項2号)に該当すると判断していることを認定した上で、後見開始の要件と同様の理由によって一律に援助の終結決定に係る判断を行っていることを踏まえ、本件終結決定は、実質的には後見開始の審判を受けたことのみを理由とする場合と同視することができるとして、消費者契約法8条の3に違反して無効であると判断した。
 本判決は、後見開始の審判が相当であると判断されたことを理由に一律に援助を終結することを許容することは、本件のように援助の目的が後見開始の審判等を受けることにある場合に、被援助者の保護を理由に、被援助者を保護するための成年後見制度の利用を妨げてしまうという不合理な結果が発生することになってしまうことも指摘しており、このような指摘や、上記のとおり、本件終結決定が消費者契約法8条の3に違反することを明確に判示した点において、評価できるものである。
 しかし、本判決において、成年被後見人が日常生活に関する行為を除き単独で有効な契約をできないことを理由に、後見相当と判断された者について一律に援助開始決定をしなかったとしても不当な差別に当たるということはできないと判示した点については、①日本が2014年に批准した障害者の権利に関する条約は、障がい者について他の者と同様に法的能力の平等を要請していること(12条2項)、②民法は成年後見開始の審判について本人による申立てを認めており、後見相当の人に一定の能力があることが想定されていること、③後見相当と診断された人であっても、その障がいの程度はさまざまであり、一律に代理援助契約を締結する能力を欠くということはできないこと(成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律により、成年被後見人であることが各種資格等の欠格事由でないとされ、また、最高裁判所令和8年2月18日判決は、旧警備業法が被保佐人であることを欠格事由としていたことを憲法違反と判断した。)、④障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律9条1項に基づいて法テラスにおいて定められた「障害を理由とする差別の解消の推進に関する規程」及び同規程規定に係る留意事項においても、障がいを理由とする対応に正当な理由があるかについては、個別の事案ごとに障がい者や第三者の権利利益等を判断することが必要であるとされていることからすれば、不当であるといわざるを得ない。

3 後見相当の人は、一般的に、補助や保佐相当の人と比較して援助の必要性が高いといえ、このような人のみを援助の対象外とすることは不合理であり、総合法律支援法が、「あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指」すことを基本理念とし(2条)、民事法律扶助事業が、「資力の乏しい者その他の法による紛争の解決に必要なサービスの提供を求めることに困難がある者にも民事裁判等手続」等の利用をより容易にする制度であると規定している(4条)ことの趣旨を没却するものである。
 このように、後見相当の人を一律に民事法律扶助による援助の対象外とする運用は不適切であるから、当会は、法テラスに対し、このような運用を直ちに改め、障がいの有無にかかわらず、資力が不十分なすべての人を対象として民事法律扶助業務を行うよう求める。
 当会も、障がいの有無にかかわらずすべての人に必要な法的サービスが行き渡る社会の実現を目指して努力を惜しまない決意である。

令和8年4月20日
熊本県弁護士会  
会長  東 健一郎