憲法記念日にあたっての会長談話
1 日本国憲法は、2026(令和8)年(以下、「本年」といいます)5月3日、1947(昭和22)年の施行から79周年を迎えます。
日本国憲法は、先の大戦における歴史を痛切に反省し、政府によって二度とこのような過ちが繰り返されることのないよう、立憲主義の下で、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という恒久平和主義を基本原理として制定されました。まさに、日本国憲法は、人類が過去の歴史から学び得たことの結晶というべきものです。
そして、世界中を見渡せば国際紛争の絶えない中、我が国が、日本国憲法のもとで、既に79年の長きにわたって平和を享受していることも尊重すべき事実です。
2 しかし、本年3月31日、熊本市東区の陸上自衛隊健軍駐屯地に25式地対艦誘導弾(旧称12式地対艦誘導弾能力向上型)ミサイル(以下、「本件ミサイル」といいます)が配備されたことで、日本は、他国領域のミサイル基地などを攻撃する反撃能力(敵基地攻撃能力)を初めて備えました。
本件ミサイルの配備は、2022(令和4)年12月16日の閣議決定による反撃能力の保有に基づくものですが、当会は、2023(令和5)年8月2日の会長声明のとおり、反撃能力の保有自体に反対しています。
熊本だけではなく、静岡県の富士駐屯地にも長射程ミサイルを配備したほか、北海道と宮崎の駐屯地にも本年度中に長射程ミサイルの配備が予定されている等、軍拡が刻々と進んでおります。
本年4月9日に開かれた衆議院憲法審査会では、与党から憲法9条への自衛隊明記など憲法改正案4項目を挙げた上で、論点が整理されたテーマから順次、改正条文起草の検討作業に入ることが提案される等、過去に濫用された歴史を持つ制度の制定を目指す憲法改正の動きがこれまで以上に活発となっており、戦後、我々が当たり前に享受してきた平和が、今、危険にさらされています。
3 海外に目を向けると、アメリカ合衆国(以下、「米国」といいます)は、本年1月2日から翌3日未明にかけて、ベネズエラの首都カラカスを含む複数の地点を爆撃したうえで、ベネズエラの大統領ニコラス・マドゥロ氏を拘束しました。米国によるこの行為は、国際法の原則である「力による現状変更は許されない」に違反するものであり、国際法上違法なものです。
そして、本年2月28日、米国とイスラエルがイランを先制攻撃し、同国の最高指導者ハメネイ氏を殺害したことを発端とする米国・イスラエルとイランによる戦争が今なお続いています。
この戦争では、米軍の巡航ミサイル「トマホーク」がイラン国内の女子小学校を誤爆し、少なくとも175人の児童が死亡する等、全く関係のない善良な市民らが惨殺される由々しき事態が生じています。
これらの暗澹たる惨状を目にしたとき、暴力や武力によって要求を押し通そうとすることの悲惨さを痛感するとともに、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認した日本国憲法前文の理想を想い起こさずにはいられません。
米国のトランプ大統領は、高市首相に対し、本年3月19日開催された日米首脳会談において、ホルムズ海峡の航行の安全へ向けて日本の貢献を要請したのに対し、高市首相は「日本の法律の範囲内でできることとできないことがある旨を伝え詳細に説明した」(本年3月23日参院本会議における高市首相の答弁)とされています。この「できないこと」の根拠となるのが「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を記した憲法9条です。すなわち、憲法9条は、自衛隊員の命を守り、戦火の拡大を防いだのです。
このように、日本国憲法は、武力ではなく対話と協調による外交努力によって平和を維持することを目指しています。今こそ日本国憲法の力を活かすときであり、日本政府が国際社会に対して平和の実現を真摯に働きかけることが望まれます。
4 国内に目を転じれば、憲法の三原則のうちの一つ、基本的人権を尊重することに関し、同性婚での婚姻を認めない現在の法制度が憲法違反であるとの裁判が各地で起こされていますが、2025(令和7)年3月25日、大阪高等裁判所で、同性婚を認めない規定は個人の尊厳を大きく損ない、不合理な差別だとして「違憲」であるとの判断が出されたことで、札幌・東京(一次訴訟)・名古屋・大阪・福岡の5高裁で、損害賠償請求は棄却されましたが、違憲判決が出されました。
そして、最高裁判所は、本年3月25日、上記訴訟を大法廷で審理することに決めました。これは、最高裁が同性婚の婚姻について憲法上の判断を行うことを意味しており、同性婚を認めない民法や戸籍法の規定が憲法に反するとの判断が出されれば、司法が、多様な性のありかたを前提として、個人を尊重する動きを強く後押しするものといえるでしょう。
人を個人として尊重し、基本的人権を尊重するという憲法の理念を実現するために、今後もさらに憲法を活かしていくことが望まれます。
5 今年は、戦後81年を迎えます。
戦争は、究極の人権侵害であり、環境破壊行為です。世界各地で多発する紛争、地球規模で進行する気候変動、AI等これまでにないレベルで発展する技術、多様化する価値観があり、世界も日本も情勢は目まぐるしく変化しています。その中で、日本が再び戦争という人権侵害・環境破壊行為をすることのないよう、日本国憲法が基本原理とする基本的人権の尊重・国民主権・平和主義を実現するための不断の努力が我々国民に求められています。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義を使命とする法律家団体として、憲法の理念を踏まえ、平和と人権擁護のために全力をあげて活動してまいります。
熊本県弁護士会
会長 東 健一郎


