最低賃金額の大幅引上げ及び地域間格差の是正並びに中小企業への実効的な支援等を求める会長声明
1 熊本県における地域別最低賃金は、昨年度の引き上げにより、初めて1000円を超え、時間額1034円となった。この金額は、一昨年から82円と過去最大の引き上げ額である。
しかしながら、仮に、この最低賃金額を前提にフルタイム(1日8時間、週40時間、月平均173.8時間)で働いたとしても、月収約17万9709円、年収で約215万6510円にしかならない。ここから差し引かれる社会保険料や税金等の公租公課の負担を考慮すれば、実質的な手取り額は、生活に十分な余力がある金額ということは到底できない。このような現状は、労働者の生活の安定(最低賃金法第1条)という最低賃金法の目的の一つが十分に果たされているとは言えない。
とりわけ、ここ数年、食料品や光熱費など生活必需品の価格の上昇が続いており、特に、低所得者が受ける影響は甚大である。熊本県の最低賃金は2020(令和2)年の822円から2025(令和7)年の1034円へと約25.7%引き上げられたものの、総務省の2020(令和2)年消費者物価指数を100とした場合の、2026(令和8)年4月との比較においては、食料品の指数は128.4と28.4%上昇しており、最低賃金の上昇は物価の上昇に追いついていない。
労働組合の全国組織が学者と協力して調査した結果によれば、このような物価高の影響も相まって、若者が自立し人間らしく生活するために最低必要な生計費は、時給に換算すると1700円から1900円と試算された。このような状況を踏まえるならば、更なる大幅な最低賃金額の引上げは必要不可欠である。
2 また、最低賃金額の地域間格差についてみると、2025(令和7)年の最低賃金額の全国加重平均は1121円であり、熊本はこれを87円も下回っている。東京都の最低賃金額は1226円であり、熊本とは192円もの差がある。地域の最低賃金の高低と人口の増減には相関関係があるとされており、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因の一つともなっている。早期に全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
3 一方で、最低賃金額の大幅な引上げは、特に地方における中小企業の経営に影響を与える可能性が大きいことから、実効的な中小企業支援策を併せて実行することが必要である。もとより中小企業の経営基盤は決して盤石なものではなく、今後、更に最低賃金額を引き上げていくに当たっては、独占禁止法や中小受託取引適正化法を積極的に活用し、中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保され、人件費等の経費の増加が適正に取引価格に転嫁されるようにすべきである。また、従来の業務改善助成金に加えて、社会保険料の事業主負担分の減免など抜本的な中小企業支援策を実現することも不可欠であり、そのためには、税と社会保障による所得再分配機能を強化するよう、担税力に応じた税制の再構築を行うことも必要である。そうすることで、最低賃金額を引き上げるだけでなく、労働者全体の賃上げにも繋がり、経済の好循環にも資するものとなる。
4 以上のことから、当会は、中央最低賃金審議会及び熊本地方最低賃金審議会に対し、労働者の健康で文化的な生活水準を保証し、地域格差解消を図るべく、最低賃金額の大幅な引上げを答申することを求めるとともに、国に対し、実効的かつ十分な中小企業支援策を求めるものである。
熊本県弁護士会
会長 東 健一郎


