選択的夫婦別姓制度の早期導入を求める会長声明
1 民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、法律上、夫婦同姓を義務付けている。
しかし、氏名は、人が個人として尊重される基礎であり、その人格の象徴であって、人格権の重要な一内容を構成するものである。婚姻に際し、自己の意思に反して氏の変更を強制されない自由は、憲法13条の保障する個人の尊厳及び幸福追求権に由来する重要な人格的利益である。
それにもかかわらず、現行制度の下では、婚姻を希望する者は、夫婦同姓を選択しない限り法律上の婚姻をすることができない。その結果、婚姻に伴う改姓を望まない者は、意に反して改姓を受け入れるか、それとも婚姻自体を断念するかという重大な選択を迫られている。
2 また、2024年内閣府男女共同参画局調べによれば、婚姻に際して改姓する者の約94%が女性である。このことは、現行制度が形式的には中立であるとしても、実質的には女性に不利益を集中させる制度として機能していることを示しており、憲法14条の法の下の平等及び憲法24条の定める両性の本質的平等に反する疑いが極めて強い。
3 さらに、婚姻による改姓は、単なる氏名変更にとどまらず、長年築いてきた人格的同一性や社会的信用、研究実績、職業上のキャリア等に重大な影響を及ぼし得るものである。加えて、戸籍上の氏と旧姓通称を使い分けることによる精神的負担や、同一性証明の煩雑さも軽視することはできない。
近年、旧姓の通称使用は一定程度拡大しており、熊本県議会は2025年3月に、「旧姓の通称使用を拡大する法制度の創設を求める意見書」を可決している。しかし、通称使用はあくまで対症療法的措置にすぎず、問題の根本的解決にはならない。実際に、海外渡航や、脱税やマネーロンダリング対策が必要となる金融機関との取引においては、戸籍上の氏名による本人確認が求められることが少なくなく、通称使用によってもなお様々な不利益や混乱が生じている。
4 また、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本政府に対し、繰り返し選択的夫婦別姓制度の導入を勧告している。
さらに、法律上夫婦同姓を強制する制度を維持している国は日本のみとされており、我が国の現行制度は国際的にも極めて特異な状況にある。
5 加えて、1996年には法制審議会が選択的夫婦別姓制度導入を内容とする法案要綱を答申しており、制度設計上の課題については既に長年にわたり検討が積み重ねられてきた。
また、最高裁判所は、2015年12月16日の判決や2021年6月23日の決定において民法750条を合憲としたが、これらの判断は、選択的夫婦別姓制度の導入を否定したものではなく、夫婦の姓に関する制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」と指摘し、国会での議論を促している。
それにもかかわらず、現在に至るまで制度改正が実現していないことは、個人の尊厳及び多様な生き方を尊重すべき現代社会の要請に照らして、極めて深刻な問題である。
6 なお、選択的夫婦別姓制度は、夫婦同姓を否定する制度ではない。同姓を希望する夫婦については従来どおり同姓を選択することができる一方、別姓を希望する夫婦にも選択肢を保障する制度である。
7 当会は、2015年及び2021年にも民法750条を速やかに改正するよう求める会長声明を発出しているが、改めて、国に対し、民法750条を速やかに改正し、選択的夫婦別姓制度を早期に導入することを強く求める。
熊本県弁護士会
会長 東 健一郎


