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最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

2019.06.20

 熊本地方最低賃金審議会は,本年8月頃,熊本労働局長に対し,本年度の地域別最低賃金額の改定に関する答申を行う見込みである。
 昨年,同審議会は,熊本県最低賃金の改正決定について,前年度比25円増額の762円とする答申を行った。しかし,時給762円という水準は,労働者がフルタイム(1日8時間,週40時間,年間52週)で働いたとしても,月収約13万2000円,年収約158万円にしかならない。この金額では,労働者がその賃金だけで自らの生活を維持していくことは容易ではなく,ましてや家族内において家計の主たる担い手となるのは困難である。労働者の生活を安定させ,労働力の質的向上を図るためにも,最低賃金の大幅な引き上げが不可欠である。また,子どもの貧困対策の視点からも,労働者全体の賃金の底上げにもつながる最低賃金の引き上げは喫緊の重要課題である。
 また,日本の最低賃金は先進諸外国の最低賃金と比較しても著しく低い。フランス,イギリス,ドイツの最低賃金は,日本円に換算するといずれも1100円を超えており,アメリカでも,ワシントン州やカリフォルニア州の一部の市などが15ドルへの引上げを決定したのを始め,全米各地の自治体で最低賃金大幅引上げが相次いでいる。国際的に見て日本の最低賃金の低さは際立っている。
 特に,熊本県における最低賃金時間額762円は,鹿児島県の761円に次いで全国で最も低い水準であり,全国加重平均額847円と85円の開きがあり,最も高い東京都の985円とは223円もの開きがある。このように地域間格差は依然として大きく,また年々拡大している。地方においては,賃金の高い都市部での就労を求めて若者が地元を離れてしまう傾向が強い。急激な人口減少や県外への人口流出によって労働供給が大きく減少している地域経済の活性化のためにも,最低賃金の地域間格差を縮小することは極めて重要である。
 なお,最低賃金の引き上げに際しては,地域の中小企業の経営に特別の不利益を与えないよう配慮することが必要である。そのためには,社会保険料の減免や減税,補助金支給等の中小企業支援措置も併せて検討されるべきである。さらに,中小企業とその取引先企業との間で公正な取引が確保されるように,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法をこれまで以上に積極的に運用する必要がある。
 当会は,熊本地方最低賃金審議会に対し,中央最低賃金審議会の答申に捉われることなく,労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに,これにより地域経済の健全な発展を促すためにも,最低賃金を大幅に引き上げる答申を行うよう求める。

2019年(令和元年)6月20日
熊本県弁護士会
 会 長  清水谷 洋樹