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介護施設での誤嚥事故(熊本日日新聞 2020年7月1日付)

2020.07.01
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 Q 脳梗塞の後遺症があり、特別養護老人ホームに入所している高齢の方が、朝食中に食べ物を気管に詰まらせ、その後亡くなりました。施設側の責任はどうなりますか。誤嚥[ごえん]事故を回避するためにはどのような点に留意すれば良いでしょうか。

 A 高齢者や脳血管障害などがある人は、食事の際に嚥下[えんげ]障害を起こすことが少なくありません。担当の職員は食品や調理方法、摂食方法などについて特段の配慮が要求され、配慮を怠っていた場合は注意義務違反として過失責任を免れず、施設も遺族に対して損害賠償責任を負うことがあります。
 嚥下障害がある人への食事介助の留意事項として厚生労働省の指針は(1)しっかり覚醒していることを確認する(2)頸部を前屈させ誤嚥しにくい姿勢にする(3)手、口を清潔にする(4)1口ずつ嚥下を確かめる(5)水分、汁物は少しずつ介助する-などを挙げています。判例もこのような指針の基準を注意義務違反の基準としていると言ってよいと思いますが、それらの一部が順守されなかったからといって、直ちに施設側の過失が認められるとは限りません。
 施設の担当職員の技術が未熟だったために誤嚥が生じたのであれば、施設側の日常的な教育・指導に問題があったことは否定できません。施設側が嚥下障害のある人に対する介護技術上の教育指導を怠っていたことを注意義務違反と捉えるべきです。従って、そのような未熟さによって死亡事故に至ったのであれば、施設側は損害賠償責任を負担すべきだと思われます。
 嚥下事故を事前に回避するためには(1)本人や家族と十分に面談し、食事の提供に関する十分な情報を聞き取る(2)施設内の人員配置を適正に行う(3)各職員の情報の共有(4)事故発生時の応急措置の体制確保(5)口腔[こうくう]ケアの徹底などが重要だと思います。

弁護士 三角恒