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同業他社への再就職(熊本日日新聞 2021年5月26日付)

2021.05.26
労働問題 労働問題

 Q 現在勤めている会社を退職し、同じ業種の別会社に入社しようと思っています。問題はないでしょうか。

 A 在職中であれば、労働者には、使用者の利益を著しく損なう「競業行為」を差し控える義務があります。使用者の正当な利益としては、営業上の秘密、独自に確立したノウハウや技術などがあります。違反した場合、就業規則の規定により懲戒処分や損害賠償請求がなされることもあります。これに対し、退職後であれば職業選択の自由が保障されているため業種の選択は基本的には自由です。
 問題なのは、退職後も同業他社への再就職などを禁じる競業避止義務を負わせるような就業規則が設けられていたり、退職時に、競業行為を行わないという誓約書等を作成したりした場合です。これについては、(1)競業行為を禁止する目的と必要性(2)労働者の契約期間中の地位や業務(3)競業が禁止される業務の範囲や期間、地域(4)使用者による代償措置の有無-などの諸事情を総合的に考え、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合は、労働者の職業選択の自由を不当に害するものとして無効になると解釈されます。
 一般的な人脈、交渉術、業務上の手法などは使用者の正当な利益にはならないとされています。したがって、相談者が在職中に得た一般的な業務に関する知識や経験、技能を用いることは競業避止義務の対象にはなりません。また、競業避止義務の対象になるとしても、制限する期間や地域、代償措置の有無によっては無効になる場合があります。

弁護士 福山素士