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忘年会で骨折、労災?(熊本日日新聞 2022年1月26日付)

2022.01.26
労働問題 労働問題

 Q 昨年の会社の忘年会は、新型コロナウイルス対策として公式行事とはせず、希望者のみの参加としました。社長の私も冒頭に顔を出し、すぐ帰りました。出席者も例年の3分2ほどだったようです。久しぶりの忘年会で盛り上がり、何人かは3次会まで行こうとしたところ、社員の1人が店の前の階段から落ちて腕の骨を折る大けがをしました。労災として会社は何か責任を負うことになるのでしょうか?

 A 労働災害保険(労災)とは、ご存じのように会社の従業員など被雇用者が、仕事中や通勤途中に起きた出来事がもとでけがや病気をしたり、死亡したりした場合、本人や家族・遺族の生活を守るための社会保険です。補償の対象となるのは「業務災害」「通勤災害」の二つです。
 今回の忘年会のケースは、業務災害になるかどうかを検討することになります。業務災害とは「業務上の負傷」などをいいますが、「業務に起因して発生した」、つまり「業務遂行中に発生した」と判断できることが必要です。この判断は「労働者が事業主の支配下ないし管理下にある」と言えるのか、具体的・個別的な事情・状況をもとに判断されます。
 判例には、私的な飲み会であっても上司から強い勧めがあり、従業員として参加しないわけにはいかなかったことに加え、飲み会の後に再び仕事に戻らなければならない状況で交通事故に遭った事案で、結果的に「業務遂行中に発生した」と判断したものがあります。
 ただ今回の事案は社の公式行事ではなく、参加も希望者のみで、実際には3分の1の従業員が欠席しており、上司もいない2次会後に発生しています。つまり、事情や状況から判断すると、「労働者が事業主の支配下ないし管理下にある」とは言えなさそうです。従って、業務遂行中に発生したけがとは言い難いので、労災にはならず、会社の責任も生じないものと思われます。

弁護士 金子愛