ノルマ未達成なら降格 人事権濫用か(熊本日日新聞 2024年1月17日付)
2024.01.17
労働問題 労働問題
Q 少し前になりますが、大手中古車販売業者の保険金不正請求が大きな問題となりました。この会社では販売・修理に関して過酷なノルマが従業員に課され、ノルマが達成できないと降格、減給処分を受けたと聞いています。そのようなことは簡単に許されるのでしょうか。
A ノルマ未達成による降格は、懲戒処分というより人事上の措置と考えられます。会社は従業員に対して人事権がありますので、経営上の裁量として降格させることはあり得ることです。
ただ、人事権を有するといっても、その濫用[らんよう]は許されません。特に賃金の減額を伴う降格は慎重に判断されるべきでしょう。人事権の濫用になるかどうかは、使用者側の業務上・組織上の必要性、労働者側の能力・適性、労働者の受ける不利益の程度、その会社における降格・昇格の運用状況などの諸事情を総合的に考慮することになります。
ノルマが達成困難なほど過酷なものであったり、降格が会社の業務上さほど必要とはいえないことや、降格に伴う給料の下げ幅が著しく大きかったりすると、人事権の濫用となる可能性が高いと言えます。
問題となった会社は過酷なノルマの存在が故意に車を傷つけるなどの不正な保険金請求などにつながったと聞いています。私も、過酷なノルマにより心身の不調、ひいては退職を余儀なくされたり、ノルマ達成のための自腹購入で多大な負債を負ったりした事例を扱ったことがあります。ノルマ自体は否定できないものの、その運用については使用者として十分留意する必要がありそうです。
弁護士 北條将人