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老人ホーム入所中の事故、責任は/防止策や配置基準が問題に(熊本日日新聞 2024年11月20日付)

2024.11.20
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 Q 特別養護老人ホームに入所中のAさん(当時85歳)は認知症の症状や徘徊[はいかい]の癖があり、食事は日常的には居室で取っていましたが、朝食の時間帯に食堂で転倒して大腿部骨折の転倒事故が発生しました。施設側はAさんに対して損害賠償責任を負うことはありますか?

 A 施設側で、Aさんの転倒を予見できたか否か、転倒回避の防止策をとっていたか否かが問題です。
 Aさんには徘徊の癖があったとしても、これまでなかった行動を取った、たとえば介護職員との意思疎通が可能であり、これまで介護職員の指示に従わずに居室を離れたことはなく、事故当日の朝食の際にも、担当職員の指示に従わないような様子はうかがえなかったのに、その後、職員の指示に反して居室を離れて間もなく、食堂に自力歩行して本件転倒事故が起きた場合には、職員が転倒事故を具体的に予見することはできず、注意義務違反があったとは言えません。
 身体拘束は禁止されており、身体拘束なしに転倒事故の予防措置を考える必要があります。いつもと違う行動を予測させるような予兆がない時には、今までなかったような手厚い見守りを義務付けるのは妥当ではありません。このような場合にまで損害賠償責任を負うことはないと言えます。
 また、介護・看護体勢が看護保険指定の配置基準を満たしているか否かも問題です。配置基準を満たしている時には、注意義務違反否定の方向になります。ただし、裁判例では配置基準を満たしていても、当然に転倒回避義務違反が否定されているわけではありません。

弁護士 三角恒